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子どもの便秘 シリーズ1

小児外科コラム03
目次

発症時期から子どもの便秘を考えましょう

医学的に便秘というのはどのように定義されていますか?

「便秘」とは一般的には「便が滞った、または便がでにくい状態」と定義されます。
また「便秘症」とは、便秘またはそれによる症状が表れ、診療や治療を必要とする場合です。よく言われる「何日間か排便が無い」ではありません。排便が滞った、または便がでにくいことで現れてくる症状、腹痛や腹部膨満、腹部不快感、不安、また排便する際の痛みや出血、痔の形成をすべて「便秘症」の一症状と理解するのが適切です。

子どもが便秘を発症しやすい時期はいつでしょうか?

子どもには発達段階に合わせて便秘を発症しやすい時期があります。
①生後3カ月ごろまでの初期乳児期、②離乳期、③トイレットトレーニング期、④学童期の4つの時期あります。
今月号では①、②について解説します。

初期乳児期便秘の原因は?

この時期の赤ちゃんは1日に2~3回排便します。
赤ちゃんの便は酸っぱいにおいがしてとても軟らかいのが一般的です。この時期の赤ちゃんは意識的にいきむことはほとんど無く、腸蠕動(腸の自律的な動き)の力で便やおならが運ばれます。哺乳することで腸蠕動が刺激され便が直腸にまで運ばれ、直腸内の圧が高まることで自然に便やおならが排泄されます。この時期の赤ちゃんは哺乳と同時に空気も一緒に飲み込みます。飲み込んだ空気はゲップまたはおならとして排泄されますが、哺乳後のゲップが良くできなかったり、過度の空気を飲み込んだりすると腸がパンパンに張ってしまいます。過度に腸が張ってしまうと腸蠕動が弱まり、便が停滞することになり便秘を発症します。

初期乳児期便秘の症状は?

お腹全体に空気と便が停滞しますので、赤ちゃんのおなかは全体的に膨満(腹満)します。
お腹の圧が高まりますので胃内容が逆流して吐き戻しが多くなります。へその緒が落ちたのち治癒過程のお臍に圧がかかります(でべそ)。横隔膜を押し上げ肺を圧迫し呼吸が苦しくなります。仰向けにさせるとぐずるため常に抱き上げていないとご機嫌が保てなくなります(抱き癖)。

初期乳児期便秘の治療法は?

空気を飲みすぎてしまう赤ちゃんに対してはゲップを促すだけでは不十分です。
私の外来ではより簡単にできるよう、オムツ交換のたびにおしりふきを肛門にあてマッサージをするように指導しています。刺激することで腸蠕動が刺激され肛門が開き、たまったガスが徐々に排泄されます。1日10回程度は刺激することができるので1週間ほどで良くなります。

離乳期の便秘の原因は?

この時期の乳幼児の排便は1日1、2回となります。
排便回数が減るため、その分1回当たりの便の量が増加します。母乳から人工乳に移行することも多くなる時期です。人工乳は母乳と比べてタンパク質の組成が異なるため便が硬くなります。離乳食が進むと食事の種類が多様化することで便も変化し形を作ることになります。子どもの方も心身両面において発達が進みます。直腸に形が整った便がたまることで便意を感じ取ります。便意に対して排泄を試みるいきみを覚えてきます。このように食事内容・便性・心身ともにダイナミックに変化する時期で、このどれか一つでもバランスを崩すと便秘症を発症します。

離乳期の便秘の症状は?

食事の量と質の変化により過度に便が大きくなったり硬くなったりした場合に便性と肛門の大きさとの間にミスマッチが起こります。
大き過ぎる便はどんなにいきんでも出にくくなります(排便時怒責)。便が硬すぎると肛門壁に負担をかけて肛門が裂け(裂肛)、便に血液が付着(排便時出血)したり泣いたりする(排便時啼泣)ことが認められます。裂肛が繰り返されると患部が肥厚、瘢痕化し痔ができます(見張りいぼ)。親の方も過度のいきみや出血を大人でもよくあることとして放置したりします。適切な治療開始時期を逸して慢性化することがあります。

離乳期の便秘の治療は?

食事の量と質を改善することは大変な労力が必要なことです。
子どもの旺盛な食欲を抑えることは不可能です。核家族化や共稼ぎ世帯の増加などにより、いわゆる「昔ながらの良質な食事」を常時用意するのもとても難しいことです。手間のかかる離乳食に代わって、大人と同等の食事を子どもが食べられるのであれば、離乳食を早めに切り上げてしまうのも仕方がないことです。この時期は食生活の改善などの負担を強いるのではなく、ビフィズス菌などが入った整腸剤と便性を軟らかくする緩下剤を使用し、便性を適切な形に整えてあげることに重点を置きます。最も使用される緩下剤は酸化マグネシウムです。
豆腐作りの際のにがりのようなもので便に水分を含ませてくれます。整腸剤はもちろんのこと、酸化マグネシウムも自然食品の一種と考えることもできます。

その他注意するべきことは?

離乳食が完了する1歳半までは食事の変化や心身の発達がダイナミックに変化する時期で、微妙なバランスの上で排便メカニズムが維持されています。
このバランスは些細なことで崩れてしまいます。その代表例が季節の変化です。秋から冬にかけて、気温と湿度が低下します。また、外遊びが少なくなり運動量も減りがちです。飲水量も低下し便性は硬くなりがちです。肛門も寒さと乾燥から肛門が裂けやすくなります。晩秋から徐々に排便間隔が滞り排便時の出血や啼泣を繰り返すものの、春になり暖かくなると自然に治ってしまいます。夏にかけて良好な排便が維持できるものの、また晩秋から悪化し始めます。季節の変化を何度か経験した2、3歳の春に症状がかなり進んだ状態で受診する親子が多くいらっしゃいます。

とても参考になりました。来月号が楽しみです。どんなお話でしょうか?

来月号では③、④について解説します。特にトイレットトレーニングの時期に生じやすい「便秘の悪循環」について重点的に解説します。

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